【第1回】なぜ「早めの対策」が最強のコストダウンになるのか?
「相続税なんて、まだ先のこと」
「うちはそんなに財産がないから大丈夫」
中小企業の経営者の皆様から、こうした声をよく伺います。しかし、35年間エンジニアとして効率化を追求し、現在は行政書士として法務に携わる私の視点から申し上げれば、相続税対策こそ「最もリードタイムを長く取るべきプロジェクト」です。
第1回では、場当たり的な対応がいかにリスクを生むか、そしてなぜ今、戦略的な準備が必要なのかを3つの軸で解説します。
1. 「名義預金」という名の落とし穴
良かれと思って家族名義の口座にお金を蓄える行為が、実は最大の法的リスク(税務調査の対象)になり得ます。
- 根拠: 実質的な所有者が被相続人(亡くなった方)であるとみなされれば、それは相続財産に含まれます。2025年現在、国税庁はAIを活用した高度な分析を導入しており、不自然な資金移動は瞬時に捕捉されます。
- 具体例: 贈与契約書がない、あるいは通帳と印鑑を本人が管理している家族名義の預金は、相続時に「申告漏れ」としてペナルティの対象になります。
- 結論: 正しい「贈与」の手順を踏むというリーガル・チェックこそが、将来の法的紛争と追徴課税を防ぐ唯一の手段です。
2. FP視点で捉える「納税資金の流動性」
相続税対策は「評価額を下げる」ことだけではありません。実は「納税資金をどう確保するか」というキャッシュフローの問題が重要です。
- 根拠: 中小企業経営者の財産の多くは「自社株」や「事業用不動産」です。これらは価値が高くても、すぐに現金化して税金を払うことが困難です。
- 具体例: 対策を怠ると、納税のために事業用の土地を切り売りしたり、経営権を揺るがすような株式放出を余儀なくされる「黒字倒産」的リスクが生じます。
- 結論: FPの視点から、生命保険の活用や退職金設計を行い、事業を継続しながら納税資金を準備する「出口戦略」が必要です。
3. 「財産の可視化」はエンジニアリングである
相続対策が進まない最大の原因は「何がどこにどれだけあるか分からない」という情報の不透明さです。
- 根拠: 製造現場の在庫管理と同様、資産も「棚卸し」と「データ化」が不可欠です。属人的な記憶に頼った管理は、相続発生時に多大な工数(調査費用)を生みます。
- 具体例: 土地の境界、古い株券、デジタル資産のパスワード。これらをシステム上で一元管理しておくことで、評価計算の精度が上がり、無駄な税金の支払いを防げます。
- 結論: 早期に資産をデータベース化(DX化)することは、相続手続きという「プロジェクト」の総工数を削減し、経営者の精神的余裕を生む最大の効率化です。
第1回のまとめ
相続税対策は、単なる「節税」ではなく、大切に築き上げた事業と家族を守るための「リスクマネジメント」です。エンジニアが機械の予防保全を行うように、資産管理も「壊れる(相続が起きる)前」の手入れが、最も安価で確実な解決策となります。
次回は、「【第2回】AIでここまで変わる!最新の資産評価と遺言書作成術」をお届けします。

