【第3回】避難所生活における文化の壁をどう乗り越えるか
地震や水害で自宅が被災した際、多くの人が避難所での共同生活を余儀なくされます。
しかし、そこで配布される食事や生活ルールが、特定の外国人従業員にとって「受け入れがたいもの」だったとしたらどうでしょうか。
第3回は、見落とされがちな「宗教・文化・食」への配慮と、企業の備えについて解説します。
【結論】
避難生活における配慮は、単なる「特別扱い」ではありません。従業員の文化を理解して心理的安全性を確保し、心身の健康を維持するための「リスク管理」です。
【根拠】
1. 食のタブー:配布された食事が食べられないリスク
避難所で配布されるおにぎりやパン、レトルト食品には、豚肉由来の成分(ゼラチンやラード)が含まれていることが多くあります。
- ポイント: ムスリム(イスラム教徒)やヒンドゥー教徒の従業員にとって、これらは「空腹でも口にできないもの」です。会社が備蓄品として、あらかじめハラール認証を受けた非常食や、原材料が明確なアルファ化米を用意しておくことは、彼らの命をつなぐ直結した支援となります。
2. メンタルヘルス:異国での被災による心理的孤立
言葉が不自由な中での避難生活は、日本人以上に強いストレスがかかります。
- ポイント: 宗教上の礼拝の場所が確保できない、周囲の目が気になって落ち着けないといった状況は、深刻なメンタル不調を招きます。会社側が「何を必要としているか」をヒアリングできる体制を整えておくことが、早期の離職防止(リテンション)につながります。
3. 地域の避難所との連携:情報のアップデート
避難所を運営する自治体や町内会は、そこに「外国人がいること」を想定していない場合があります。
- ポイント: 普段から地域と連携し、「わが社には〇〇国の従業員が〇名いる」という情報を共有しておくことで、支援物資のミスマッチを減らすことができます。
【3軸からの考察】
- コンプライアンス視点(行政書士):特定の宗教や文化を理由にした不当な扱いは、ハラスメントや差別と捉えられるリスクがあります。平時から「多様性への配慮」を企業の基本方針に組み込み、周知しておくことが法務上の防衛策となります。
- コスト・労務視点(FP・社労士):ハラール対応の非常食は、一般のものよりコストが高くなる傾向があります。しかし、被災による長期離職や再採用コスト(数百万円単位)を考えれば、適切な備蓄は極めて投資対効果(ROI)の高い経費です。
- 効率化・DX視点(エンジニア):原材料表示をスマホで撮影するだけで、禁止成分が含まれていないか判別するアプリや、翻訳ツールをあらかじめ従業員の端末にインストール・設定しておくことで、現場の混乱をシステムで解決できます。
【具体例:会社ができる「事前準備」リスト】
- 原材料ピクトグラムの導入: 豚・鶏・牛・卵などをイラストで示したカードを用意し、避難所の食事確認に使えるようにする。
- プライバシーの確保: 避難所内で礼拝や着替えができるよう、折りたたみ式の簡易テントやパーテーションを会社で備蓄しておく。
- 多言語相談窓口の周知: 自治体や国際交流協会が設置する多言語相談ダイヤルを、事前の配布物に記載しておく。
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次回予告:
第4回は「法務・手続編」です。被災して在留カードを失くした、会社が倒壊して働けない……そんな時の在留資格や雇用契約のルールについて解説します。

