― 相続手続きの“盲点”を避けるための実務ガイド ―
相続でよくある相談のひとつが、
「遺言には書いていないけれど、故人の車を家族以外の人に譲りたい」
というケースです。
例えば、
- 生前にお世話になった知人へ譲りたい
- 介護を手伝ってくれた人に形見として渡したい
- 会社の従業員に使ってほしい
など、背景はさまざま。
しかし、遺言に記載がない場合、相続人以外へ直接名義変更することはできません。
ここが制度と現場のギャップが生まれやすいポイントです。
1. なぜ相続人以外へ直接名義変更できないのか
自動車の名義変更は、法律上「所有権の移転」です。
遺言がなければ、車はまず法定相続人全員の共有財産になります。
つまり、
相続人 →(譲渡)→ 第三者
という流れを踏まえないと、名義変更ができません。
2. 実務で使える「第三者へ譲るための3つの方法」
① 相続人全員が一度相続し、その後に第三者へ譲渡する
最も一般的で確実な方法です。
手順
- 相続人全員で遺産分割協議を行い、車の取得者を決める
- その相続人が車を相続して名義変更
- その相続人から第三者へ譲渡(売買・贈与)
ポイント
- 遺産分割協議書に「車をAが取得する」と明記
- その後の譲渡は通常の名義変更手続き
- 税金(自動車取得税など)は車種・地域で異なるため注意
メリット
- 手続きが明確で、陸運局でもスムーズ
- トラブルが少ない
② 遺産分割協議書に「第三者へ譲渡することを相続人全員が承認」と書く
実務では比較的よく使われる方法です。
例:
「本車両については、相続人全員が〇〇(第三者)へ譲渡することに合意する」
この場合、
- 相続人の誰かが形式上いったん相続し
- その後、第三者へ譲渡する
という流れは変わりませんが、相続人全員の意思が明確になるため、後のトラブル防止に有効です。
③ 相続人全員が「相続放棄」をして、第三者が買い取る(特殊ケース)
これはかなり限定的な方法です。
相続人全員が相続放棄すると、遺産は次順位の相続人へ移ります。
しかし、車だけを第三者に渡すために相続放棄を使うのは現実的ではありません。
注意点
- 相続放棄は“全部放棄”であり、車だけ放棄することはできない
- 家庭裁判所の手続きが必要
- 他の財産にも影響する
3. 実務で最もトラブルが少ないのはどれか
結論としては、
「① 相続人が一度相続し、その後に第三者へ譲渡」が最も確実です。
理由は、
- 陸運局の手続きが標準化されている
- 相続人の意思確認が明確
- 第三者との売買・贈与契約も通常どおり扱える
- 税務上の整理もしやすい
制度と現場の両面で、最もリスクが少ない方法といえます。
4. 実務でよくある“つまずきポイント”
● 車検証の住所と住民票の住所が違う
→ 住所変更の履歴書類が必要になり、手続きが複雑化。
● 相続人の一部が連絡不通
→ 遺産分割協議が成立せず、名義変更が進まない。
● 車の価値が高い場合、贈与税の問題が出る
→ 第三者への無償譲渡は「贈与」とみなされる可能性。
● 外国人が相続人・譲受人の場合
→ 在留カードの確認、印鑑証明の代替書類など、追加書類が必要になることも。
現場では、こうした細かい点で手続きが止まることが多いです。
5. まとめ:遺言がなくても、第三者へ車を譲る方法はある
ポイントは次の3つです。
- 遺言がなければ、車はまず相続人全員の共有財産
- 第三者へ直接名義変更はできない
- 相続 → 譲渡 の2段階で進めるのが最も確実
制度上のルールを踏まえつつ、現場で起きやすいトラブルを避けるためには、
相続人全員の合意形成と、書類の整備がカギになります。

