― 誤解しやすい境界線を整理する実務ガイド ―
「父が亡くなり、生命保険金を長男が受け取った。これは兄弟で分けるべき?」
「生命保険は遺産分割の対象になるの?」
そんな疑問は、相続の現場で非常によく聞かれます。
実は生命保険金は、民法と税法で扱いが異なる“特殊な財産”です。
この違いを理解していないと、相続人間のトラブルや税務上のリスクにつながることも。
1. 民法上:生命保険金は原則「受取人の固有財産」
生命保険金は、保険契約に基づいて指定された受取人が直接取得する財産です。
そのため、民法上は原則として相続財産ではなく、遺産分割の対象外とされています。
例:
- 被保険者:父
- 受取人:長男
→ 長男が受け取った保険金は、他の兄弟と分ける必要はない(原則)
これは最高裁判例でも確立された考え方です。
2. 税法上:生命保険金は「みなし相続財産」
一方、税法では生命保険金を「みなし相続財産」として扱い、
相続税の課税対象になります。
ただし、以下のような非課税枠が設けられています。
非課税枠の計算式
「500万円 × 法定相続人の数」
→ この金額までは相続税がかからない
例:法定相続人が3人なら、1,500万円まで非課税。
3. 特別受益とみなされるケースに注意
生命保険金は原則として遺産分割の対象外ですが、
金額が大きすぎる場合や、他の相続人との不公平が著しい場合には、
「特別受益」として遺産に持ち戻される可能性があります。
特別受益とされる条件(例)
- 保険金が遺産総額の6割以上
- 他の相続人がほとんど財産を受け取れない
- 被相続人と受取人の関係性が偏っている
→ 最終的には裁判所の判断になりますが、相続人間の合意形成が重要です。
4. 受取人が指定されていない場合は「遺産」になる
保険契約で受取人が指定されていない場合、
保険金は被相続人の遺産として、相続人全員で分ける対象になります。
この場合は、通常の遺産分割協議書に保険金を含めて記載する必要があります。
5. 外国人が受取人の場合の注意点
- 印鑑証明の代わりに「署名証明」が必要になることがある
- パスポート・在留カードの提示を求められる場合も
- 書類の翻訳や公証が必要になるケースもある
→ 保険会社ごとに対応が異なるため、事前確認が重要です。
6. よくある“つまずきポイント”
| つまずきポイント | 回避策 |
|---|---|
| 保険金が遺産だと思って協議書に記載してしまう | 保険契約書で受取人を確認し、民法上の扱いを整理 |
| 相続税の申告漏れ | 「みなし相続財産」として申告が必要。非課税枠の計算も忘れずに |
| 他の相続人から「不公平だ」と言われる | 特別受益のリスクを説明し、合意形成を図る |
| 外国人受取人の書類が揃わない | 署名証明・翻訳・公証などを早めに準備 |
7. まとめ:生命保険金は“契約と受取人”で扱いが決まる
ポイントは次の3つです。
- 民法上は「受取人固有の財産」 → 遺産分割の対象外
- 税法上は「みなし相続財産」 → 相続税の対象(非課税枠あり)
- 特別受益とみなされると、遺産に持ち戻しの可能性あり
制度と現場のギャップを埋めるには、
保険契約の内容・受取人の指定・相続人間の合意形成がカギになります。

