中小企業の経営者のみなさま、本当にお疲れ様です。
前回の第6回では、新社長を支える「右腕(幹部社員)」の育成と、トラブルを防ぐクリーンな労務管理についてお話ししました。
組織の骨組みが見えてきたところで、次に避けて通れないのが、現代の中小製造業が直面している最大の課題である「人手不足」への対策です。
現在、多くの製造現場で「技能実習生」や「特定技能」といった外国人材が不可欠な戦力となっています。事業承継のタイミングは、単に経営権を移すだけでなく、「外国人材が定着し、力を発揮できる持続可能な組織」を後継者に引き継ぐ絶好の機会でもあります。
今回は、外国人雇用の維持と、未来を見据えた組織づくりについて解説します。
事業承継期に潜む「外国人雇用」の落とし穴
「うちはもう何年も実習生を受け入れているから大丈夫」
そう安心している企業ほど、社長交代のタイミングで思わぬ手続きのトラブルや、現場の離職リスクに直面することがあります。特に以下の2点には注意が必要です。
- 経営者交代に伴う「在留資格(ビザ)」の手続き:社長が交代し、法人の代表者が変わった場合、出入国在留管理庁(入管)に対して「所属機関に関する届出」などの手続きが必要になるケースがあります。また、外国人材の受け入れに際して「経営者が過去に労働法違反をしていないか」といった要件も関わってくるため、前回の第6回でお伝えした「労務管理のクリーン化」がここでも極めて重要になります。
- 「社長の交代」による外国人社員の不安:外国人社員にとって、自分を雇ってくれた「日本の社長」は、日本における身元保証人のような存在であり、非常に大きな精神的支柱です。トップが変わることで、「自分たちはこのまま雇ってもらえるのだろうか」「国に帰らされのではないか」と、日本人社員以上に強い不安を感じることがあります。
外国人材と共生し、強い現場を後継者につなぐ3つのステップ
人手不足を乗り越え、次世代の工場として成長していくために、今から取り組むべき組織づくりのステップをご紹介します。
ステップ1:後継者と外国人材の「信頼関係」を早期に築く
現社長の仕事は、後継者を外国人社員に引き合わせ、関係性を「橋渡し」することです。
- 現社長がいるうちから、後継者が現場のミーティングや面談に同席し、直接コミュニケーションを取る機会を増やします。
- 新社長になる予定の人物が「彼らを大切な戦力(パートナー)として見ている」という姿勢をしっかり示すことで、外国人社員の不安を解消し、エンゲージメント(帰属意識)を高めることができます。
ステップ2:キャリアパス(特定技能への移行など)の仕組み化
技能実習生(原則3年〜5年)として来てくれている優秀な人材に、その後も「特定技能」へ在留資格を切り替えて長く働いてもらうためのルートを確立します。
「この工場で頑張れば、長く日本で働けて、キャリアアップもできる」という見通し(キャリアパス)を会社として用意しておくことは、後継者が将来の人員計画を立てる上での強力な武器になります。
ステップ3:言語と文化の壁を越える「現場の仕組み化」
第5回でご紹介した「生成AIを活用した多言語マニュアル」や「QRコード動画」などをさらに活用し、言葉の壁があっても「安全に、かつ正確に作業ができる現場環境」へとブラッシュアップします。
新社長が現場のオペレーションに付きっきりにならなくても、外国人材が自立して高品質な製品を作れる仕組みを残してあげることが大切です。
「選ばれる工場」になることが、未来の事業を維持する
かつては「労働力の補填」という意味合いが強かった外国人雇用ですが、これからの時代は「いかに優秀な外国人材に選ばれ、長く活躍してもらうか」という視点が不可欠です。
外国人材が安心して働ける環境(適切な労務管理、分かりやすい教育体制、温かい人間関係)が整っている工場は、結果として、日本の若い求職者にとっても「働きやすく、成長できる魅力的な職場」に映ります。
人手不足に強い組織を作ることは、後継者が次の10年、20年を生き抜くための、何よりの経営基盤となるはずです。
確実な法務手続きと、未来の組織図の作成を
外国人雇用に関する手続き(入管法)や労務管理(労働法)は、年々複雑化しています。
当事務所では、外国人を雇用する企業様を主要な顧客として、日々多くのビザ申請や労務コンプライアンスのサポートを行っています。
事業承継という大きな転換期をトラブルなく乗り越え、外国人材とともに成長する強い現場を作りたい経営者様、ぜひ一度、現状の雇用体制の点検から始めてみませんか?
次回予告:第8回「親族か、従業員か、M&Aか。我が社にとって最適な『引き継ぎ方』の選び方」
次回は、事業承継の具体的な「手法」にスポットを当てます。「親族内承継」「従業員・社内承継」「第三者承継(M&A)」の3つのパターンのメリット・デメリットを、製造業の視点から徹底比較します。
【個別のご相談も承っております】
「社長交代にあたって、実習生や特定技能の手続きで注意することはある?」「外国人材がもっと定着するような労務環境に整えたい」など、外国人雇用と事業承継に関する疑問や不安があれば、どうぞお気軽にご相談ください。実務に直結したアドバイスでサポートいたします。

