~定型業務を減らし、人が判断すべき仕事に集中する~
前回の記事では、営業・マーケティングにおけるAI活用について解説しました。
ホームページ文章、ブログ、SNS、提案書など、AIは「自社の強みを分かりやすく伝える」ために活用できます。
今回は、さらに一歩進んだ活用方法として、AIエージェントについて考えてみます。
AIエージェントという言葉は、まだ聞き慣れない方も多いかもしれません。
簡単に言えば、AIエージェントとは、単に質問に答えるだけでなく、目的に向かって複数の作業を進めるAIのことです。
例えば、
- ファイルの内容を読み取る
- 必要な情報を整理する
- 表にまとめる
- 書類のたたき台を作る
- データを分類する
- 作業手順を提案する
といったことを、連続した流れとして支援してくれます。
これまでのAI活用が「文章作成の補助」だとすれば、AIエージェントは「業務の流れそのものを手伝う補助者」と考えると分かりやすいでしょう。
AIエージェントとは何か
通常のChatGPTのような生成AIは、人が質問や指示を入力すると、それに対して回答します。
例えば、
お客様へのお礼メールを作ってください。
と入力すれば、メール文を作成してくれます。
一方、AIエージェントは、もう少し広い作業を任せるイメージです。
例えば、
このPDFの内容を確認し、必要な項目を抜き出して一覧表にし、不足している情報をチェックしてください。
というように、複数の作業をまとめて依頼できます。
もちろん、AIがすべて正しく処理できるわけではありません。
しかし、これまで人が手作業で行っていた確認、転記、整理、下書き作成などを大幅に効率化できる可能性があります。
中小企業で自動化しやすい業務
中小企業でAIエージェントを活用しやすいのは、毎回同じような流れで行う定型業務です。
例えば、
- PDFやExcelから必要項目を抜き出す
- 顧客情報を一覧表に整理する
- 問い合わせ内容を分類する
- 議事録から ToDo を抽出する
- 契約書や申請書類の確認項目をリスト化する
- 社内マニュアルのたたき台を作る
- メール文面を作成する
- 業務チェックリストを作る
こうした業務は、ひとつひとつは小さな作業でも、積み重なると大きな負担になります。
特に中小企業では、社長や少人数の担当者が事務作業を兼任していることも多く、定型業務の負担を減らすことは大きな意味があります。
例1 PDFや書類から必要情報を抜き出す
行政手続きや契約、見積り、請求などでは、PDFや紙の書類を確認する場面が多くあります。
例えば、
- 会社名
- 所在地
- 代表者名
- 契約期間
- 金額
- 支払条件
- 許認可番号
- 提出期限
などを人が目で確認し、別の表に転記する作業です。
AIエージェントを活用すると、書類から必要な情報を抜き出し、一覧表の形に整理することができます。
もちろん、読み取り結果は必ず人が確認する必要があります。
しかし、最初からすべて手入力するよりも、作業時間を大幅に短縮できる可能性があります。
特に、毎月同じ形式の書類を処理する業務では効果が出やすいでしょう。
例2 議事録から ToDo を抽出する
会議のあとに議事録をまとめるだけで終わってしまい、実際の行動につながらないことがあります。
AIエージェントを使えば、会議メモや議事録から、
- 決定事項
- 未決事項
- 担当者
- 期限
- 次回までの宿題
を整理できます。
例えば、
この会議メモから、決定事項、担当者ごとのToDo、期限があるものを一覧表にしてください。
と依頼すれば、会議後の行動を整理しやすくなります。
中小企業では、会議の数は多くなくても、社長や担当者の頭の中にタスクが残ったままになりがちです。
AIを使って見える化することで、抜け漏れを防ぎやすくなります。
例3 問い合わせ内容を分類する
ホームページやメールからの問い合わせが増えてくると、内容を整理するだけでも手間がかかります。
AIエージェントは、問い合わせ内容を分類する作業にも活用できます。
例えば、
- 見積り依頼
- 採用応募
- 取引相談
- クレーム
- 既存顧客からの連絡
- 営業メール
といった分類です。
さらに、急ぎのもの、返信が必要なもの、担当者に回すものなどを整理することもできます。
ただし、実際に返信する前には、必ず人が内容を確認する必要があります。
特にクレームや契約に関する問い合わせでは、AIの判断だけで対応するとトラブルになるおそれがあります。
例4 申請書類の準備チェックに使う
行政書士の分野に近い活用例として、申請書類の準備チェックがあります。
許認可申請や外国人雇用に関する手続きでは、必要書類が多く、会社側で何を準備すればよいか分かりにくいことがあります。
AIエージェントを使えば、
- 必要書類の一覧化
- 依頼者に確認する事項の整理
- 不足資料のチェック
- 提出前確認リストの作成
- 説明文のたたき台作成
などに活用できます。
例えば、
建設業許可申請の準備として、会社に確認すべき事項をチェックリストにしてください。
または、
外国人を雇用する際に、会社側が確認しておくべき項目を一覧にしてください。
といった使い方です。
ただし、許認可や在留資格の判断は、AIだけで行うべきではありません。
法律上の要件や個別事情を確認したうえで、専門家が判断する必要があります。
AIは、あくまで準備作業や情報整理を助ける道具として使うことが大切です。
例5 社内マニュアル作成を支援する
中小企業では、業務が特定の人に集中していることがあります。
いわゆる属人化です。
担当者が休んだり退職したりすると、業務の進め方が分からなくなることもあります。
AIエージェントは、社内マニュアル作成にも活用できます。
例えば、担当者が普段行っている作業を箇条書きで入力し、
この作業手順を、新人にも分かる業務マニュアルにしてください。
注意点とチェック項目も加えてください。
と依頼すれば、マニュアルのたたき台を作成できます。
最初から完璧なマニュアルを作る必要はありません。
まずは簡単な手順書を作り、実際の業務に合わせて少しずつ改善していくことが重要です。
AIエージェント導入で注意すべきこと
AIエージェントは便利ですが、業務に使う場合には注意点があります。
1 個人情報や機密情報を入力しない
顧客名、取引先情報、契約金額、従業員情報、図面、未公開の経営情報などは慎重に扱う必要があります。
AIに入力する前に、個人名や会社名を伏せるなど、情報を加工することが基本です。
2 結果を必ず人が確認する
AIが作成した一覧表やチェックリストには、抜け漏れや誤りが含まれる可能性があります。
特に、金額、期限、法的要件、契約条件などは人による確認が不可欠です。
3 いきなり重要業務に使わない
最初から契約、許認可、会計、労務などの重要業務に使うのはおすすめできません。
まずは、社内メモの整理やマニュアル作成など、リスクの低い業務から試すとよいでしょう。
4 社内ルールを決める
誰が、どの業務で、どの範囲までAIを使ってよいのかを決めておくことも重要です。
AI活用を進めるほど、情報管理ルールの整備が必要になります。
まずは小さな自動化から始める
AIエージェントという言葉を聞くと、大がかりなシステム導入を想像するかもしれません。
しかし、最初から大きな仕組みを作る必要はありません。
まずは、
- 議事録からToDoを抜き出す
- 定型メールを作る
- Excelの表を整理する
- PDFの内容を要約する
- 社内マニュアルのたたき台を作る
といった小さな業務から始めるのがおすすめです。
小さな成功体験を積み重ねることで、自社に合ったAI活用の形が見えてきます。
まとめ
AIエージェントは、単に文章を作るだけでなく、業務の流れそのものを支援するAIです。
中小企業では、
- 書類から必要情報を抜き出す
- 議事録からToDoを整理する
- 問い合わせ内容を分類する
- 申請書類の準備チェックをする
- 社内マニュアルを作成する
といった場面で活用できます。
一方で、個人情報や機密情報の管理、結果の確認、社内ルールの整備は欠かせません。
AIエージェントは、人の判断を不要にするものではありません。
むしろ、定型的な作業を減らし、人が本来行うべき判断や顧客対応に集中するための道具です。
中小企業にとって、限られた人員で業務を回すことは大きな課題です。
AIエージェントを上手に活用することで、日々の作業負担を減らし、会社全体の生産性を高めることが期待できます。
次回予告
第9回は、
「AI利用時の法的リスクと注意点」
をテーマに、個人情報、著作権、機密情報、契約・許認可・在留資格に関する注意点など、企業がAIを使う際に押さえておきたいリスクについて解説します。

