中小企業の経営者のみなさま、お疲れさまです。
前回の第1回では、製造業の事業承継には「資産」と「技術」という二重の壁があること、そして早期の準備がいかに大切かをお伝えしました。
第2回となる今回は、その「資産の壁」の中でも、多くの経営者様が「うちは大丈夫だろう」と見落としがちな「自社株(取引相場のない株式)の評価額」について解説します。
「うちは上場していない町工場だから、株の価値なんてあってないようなもの」
そう思い込んでいませんか? 実は、その油断がのちに後継者を苦しめる大きな火種になることがあるのです。
なぜ、実直な製造業ほど「自社株」が高騰しやすいのか?
結論から言うと、長年まじめに黒字経営を続け、設備投資を重ねてきた製造業ほど、自社株の評価額は高くなりやすい傾向にあります。
中小企業の株価(税務上の評価額)は、主に「会社の純資産(これまでに蓄積した利益や保有資産)」や「業績(利益)」を基に計算されます。
製造業の場合、次のような理由から、経営者様が想像している以上に株価が膨らんでいるケースが多々あります。
- 内部留保(利益の蓄積)がある:派手な生活をせず、将来のためにと会社に利益を残してきた結果、純資産が大きくなっている。
- 工場や土地の含み益がある:昔買った工場の土地などが、現在の評価で見ると価値が上がっている。
- 高性能な機械・設備がある:高額な生産設備や機械を保有している。
「手元にキャッシュ(現金)はそんなにないのに、計算上の株価だけが数億円になっていた」というのは、製造業の事業承継現場では決して珍しい話ではありません。
自社株が高いまま放置すると、どんなリスクがあるのか?
もし自社株が高い状態のまま、何も対策をせずに相続や贈与の時期を迎えてしまうと、次のような深刻な問題が発生します。
- 後継者に莫大な税金がかかる:株を引き継ぐ際、後継者には贈与税や相続税が課せられます。しかし、自社株は現金と違って、税金を払うために切り崩して使うことができません。後継者は「お金に換えられない株」のために、多額の現金をどこからか用意して納税しなければならなくなります。
- 経営権が分散し、会社がコントロールできなくなる:社長に万が一のことがあった際、高額な自社株を後継者一人に集中して相続させようとすると、会社を継がない他の親族から「不公平だ」と不満が出ることがあります。その結果、法定相続分に応じて株がバラバラに分散してしまい、後継者が迅速な経営判断を下せなくなる(意思決定に必要な議決権を確保できない)という最悪の事態を招きかねません。
賢く引き継ぐための「3つの基本アプローチ」
では、この重い「自社株の壁」を乗り越えるために、私たちはどのような準備ができるのでしょうか。代表的なアプローチを3つご紹介します。
① タイミングを見計らった「株価の引き下げ」
株価は会社の業績や設備投資のタイミングによって変動します。たとえば、新たな工場設備の導入や大規模な修繕を行い、一時的に利益が下がるタイミングなどは、株価が下がりやすくなります。この「株価が下がった瞬間」を狙って後継者に株を移転していくのは、非常に有効な一手です。
② 長期計画による「生前贈与の活用」
一時にすべての株を譲ろうとするから税負担が重くなります。毎年、贈与税の基礎控除(110万円)などを活用しながら、計画的に少しずつ後継者へ株を移していくことで、将来の相続税の負担を大きく軽減できます。
③ 「事業承継税制(特例措置)」の検討
国も中小企業の事業承継を後押しするため、一定の要件を満たせば贈与税・相続税の納税が「猶予・免除」される「事業承継税制」という仕組みを設けています。非常に強力な制度ですが、事前の計画提出や承継後の雇用維持など、クリアすべき条件も多いため、専門家と丁寧に進める必要があります。
「全体のバランス」を見据えた予防法務を
自社株の対策は、単に「税金を安くする」ためだけのものではありません。
最も大切なのは、「次の社長が、従業員や顧客を守りながら、安心してモノづくりに専念できる環境(経営権)をきれいに残してあげること」です。
そのためには、税務の視点だけでなく、経営全体の健康状態を診る「経営診断」の視点や、親族間の人間関係に配慮した「予防法務」の視点が絶対に欠かせません。
株価の具体的な算定や税務申告そのものは税理士の専門領域ですが、「そもそも我が社の現状はどうなっているのか?」「親族間で揉めないために、どんな遺言や生前対策が必要か?」という全体最適の交通整理とロードマップ作りこそが、事業承継の最初の、そして最も重要な一歩となります。
後継者へのバトンタッチをスムーズにするために、まずは自社の株が今どれくらいの価値になっているのか、現状を把握することから始めてみませんか?
次回予告:第3回「工場と設備をどう守る?製造業特有の『重い資産』を引き継ぐポイント」
次回は、自社株と並んで製造業の大きな資産である「工場の土地・建物」や「機械設備」、そして経営者の「個人保証(連帯保証)」をどのように後継者へ引き継ぎ、守っていくべきか、具体的なリスクと対策を詳しくお伝えします。
【個別のご相談も承っております】
「うちの会社の株って、今のままだとマズイのかな?」「何から手を付けたらいいか分からない」とお悩みの経営者様。当事務所では、経営面・法務面の両輪から、貴社に寄り添った最適な事業承継の進め方をアドバイスいたします。どうぞお気軽にご相談ください。

