~便利だからこそ、会社を守るルールづくりを~
前回の記事では、AIエージェントを活用した業務自動化について解説しました。
AIは、書類の整理、議事録からのToDo抽出、問い合わせ分類、マニュアル作成など、さまざまな業務を効率化できます。
一方で、企業がAIを業務に使う場合には、注意すべき点もあります。
特に中小企業では、
- とりあえず便利そうだから使っている
- 社員が個人判断でAIを使っている
- 入力してよい情報と、してはいけない情報の区別がない
- AIが作った文章をそのまま使っている
という状態になりがちです。
AIは便利な道具ですが、使い方を誤ると、個人情報の漏えい、著作権侵害、誤情報による判断ミス、信用低下などのリスクにつながる可能性があります。
今回は、中小企業がAIを利用する際に押さえておきたい法的リスクと注意点について解説します。
AI利用で特に注意したい4つのリスク
企業がAIを使う際に、特に注意したいのは次の4つです。
1つ目は、個人情報の取り扱いです。
2つ目は、会社の機密情報の入力です。
3つ目は、著作権など知的財産権の問題です。
4つ目は、AIの回答をうのみにすることによる誤った判断です。
どれも難しく聞こえるかもしれません。
しかし、基本はシンプルです。
「外部に出してはいけない情報をAIに入力しない」
「AIの回答をそのまま信じず、必ず人が確認する」
まずはこの2つを徹底することが大切です。
個人情報を入力しない
AI利用で最も注意すべきものの一つが、個人情報です。
例えば、
- 従業員の氏名
- 住所
- 電話番号
- メールアドレス
- 給与情報
- 履歴書
- 職務経歴書
- 健康情報
- マイナンバー
- 外国人従業員の在留カード情報
などは、慎重に取り扱う必要があります。
採用活動や労務管理、外国人雇用の場面では、個人情報を扱う機会が多くあります。
そのため、AIに履歴書や在留カードの内容をそのまま入力して要約させる、といった使い方は避けるべきです。
どうしても内容を整理したい場合は、個人が特定されない形に加工してから使います。
例えば、氏名を「Aさん」、会社名を「B社」、住所を「愛知県内」などに置き換える方法です。
AIに入力する前に、
「この情報が外部に出ても問題ない形になっているか」
を確認する習慣が必要です。
会社の機密情報を入力しない
個人情報だけでなく、会社の機密情報にも注意が必要です。
例えば、
- 取引先名
- 契約金額
- 見積条件
- 原価情報
- 未公開の事業計画
- 技術資料
- 図面
- 顧客リスト
- クレーム内容
- 社内の人事情報
などです。
AIサービスの種類や設定によっては、入力した情報がどのように扱われるのか確認が必要です。
特に無料サービスや個人アカウントで業務情報を入力する場合は、慎重に考えるべきです。
AIに相談したい場合でも、情報を一般化して入力することができます。
例えば、
「A社との契約金額が〇〇円で……」
と入力するのではなく、
「取引先との契約で、支払条件を確認する際の一般的な注意点を教えてください」
と聞く方法です。
具体的な情報を入れなくても、十分に役立つ回答が得られることは多くあります。
著作権に注意する
AIを使ってブログ、SNS、チラシ、画像、資料などを作成する場合には、著作権にも注意が必要です。
例えば、
- 他社の文章をAIに書き換えさせて使う
- インターネット上の画像を参考にして似た画像を作る
- 有名キャラクター風の画像を作る
- 書籍や記事の内容を大量に入力して要約する
- AIが作った文章を確認せず公開する
といった使い方には注意が必要です。
AIが作ったものだからといって、必ず自由に使えるとは限りません。
特に、既存の著作物に似ている文章や画像を商用利用する場合には、慎重な確認が必要です。
ブログやSNSで使う文章についても、AIが作った文章をそのまま公開するのではなく、自社の実態に合っているか、他者の権利を侵害していないかを確認することが大切です。
AIの回答をうのみにしない
AIはとても自然な文章で回答します。
そのため、正しいことを言っているように見えます。
しかし、AIは誤った情報をもっともらしく回答することがあります。
特に注意が必要なのは、
- 法律
- 許認可
- 在留資格
- 労務
- 税務
- 補助金
- 契約
- 医療や安全に関する情報
などです。
例えば、外国人雇用についてAIに質問すると、在留資格の一般的な説明はしてくれるかもしれません。
しかし、実際にその人がその業務で働けるかどうかは、本人の学歴、職歴、在留資格、雇用契約、会社の事業内容などを確認しなければ判断できません。
AIの回答は、あくまで情報整理や下調べの補助として使うべきです。
最終判断は、必ず専門家や公的情報を確認して行う必要があります。
契約書や許認可での使い方に注意する
契約書や許認可申請の場面でも、AIは便利に使えます。
例えば、
- 契約書の内容を要約する
- 確認すべき項目をリスト化する
- 許認可申請の流れを整理する
- 必要書類のチェックリストを作る
- 依頼者に確認する事項を整理する
といった使い方です。
しかし、契約書の有効性や、許認可の要件充足をAIだけで判断するのは危険です。
AIは、条文や制度を正確に理解しているように見えても、個別事情に応じた判断を誤ることがあります。
行政書士の視点から見ても、AIは「専門家の代わり」ではなく、「専門家に相談する前の整理役」として使うのが適切です。
重要な契約や申請では、必ず専門家に確認することが大切です。
社内ルールを決めておく
中小企業がAIを安全に使うためには、難しい規程を最初から作る必要はありません。
まずは簡単な社内ルールを決めることが大切です。
例えば、次のようなルールです。
- 個人情報を入力しない
- 取引先名や契約金額を入力しない
- 図面や技術資料を入力しない
- AIの回答をそのまま公開しない
- 法律、税務、労務、在留資格の判断には使わない
- 公開前に必ず人が確認する
- 業務利用するAIサービスを決めておく
- 使ってよい業務と、使ってはいけない業務を分ける
このような基本ルールがあるだけでも、リスクは大きく減らせます。
特に従業員が個人アカウントで自由にAIを使っている場合は、会社としてのルールづくりが必要です。
AI活用チェックリスト
AIを業務で使う前に、次の点を確認してみましょう。
- 個人情報は含まれていないか
- 会社の機密情報は含まれていないか
- 取引先に関する情報は含まれていないか
- AIの回答をそのまま使おうとしていないか
- 著作権や商標に関わる内容ではないか
- 法律や制度に関する判断をAIだけで行っていないか
- 公開前に人が確認する流れがあるか
- 社内で使い方のルールが共有されているか
このチェックを習慣にするだけでも、安全なAI活用に近づきます。
行政書士に相談できること
AI活用そのものはITのテーマに見えるかもしれません。
しかし、企業がAIを使う場面では、法務、契約、個人情報、許認可、外国人雇用など、行政書士の業務と関係する論点も多くあります。
例えば、
- 外国人雇用に関する説明資料の整備
- 在留資格手続きに必要な情報整理
- 社内ルールやマニュアルの作成支援
- 許認可申請に必要な書類整理
- 契約書や社内文書の確認前の整理
- 個人情報を含む業務フローの見直し
などです。
AIを使うことで業務は効率化できます。
しかし、会社として守るべきルールや手続きまで省略してよいわけではありません。
便利さと安全性のバランスを取りながら活用することが重要です。
まとめ
AIは、中小企業にとって業務効率化の強力な味方になります。
一方で、使い方を誤ると、
- 個人情報の漏えい
- 機密情報の流出
- 著作権侵害
- 誤情報による判断ミス
- 取引先や従業員からの信用低下
といったリスクにつながる可能性があります。
大切なのは、AIを怖がって使わないことではありません。
リスクを理解したうえで、ルールを決めて使うことです。
AIは、会社の判断や責任を代わりに負ってくれるものではありません。
しかし、適切に使えば、文章作成、情報整理、チェックリスト作成、資料作成など、多くの業務を支えてくれます。
中小企業がAIを安心して活用するためには、
「入力しない情報を決める」
「AIの回答を人が確認する」
「重要判断は専門家に相談する」
この3つを意識することが大切です。
便利さと安全性のバランスを取りながら、自社に合ったAI活用を進めていきましょう。
次回予告
第10回は、
「中小企業のAI活用ロードマップ」
をテーマに、AIをこれから導入する企業が、何から始め、どのように社内に広げていけばよいのかを分かりやすく解説します。

