「分かりました」を鵜呑みにしない
入社後30日間の教育とコミュニケーション
外国人社員が入社して数日すると、少しずつ職場にも慣れてきます。
あいさつができるようになり、決められた時間に出勤し、簡単な作業も一人でできるようになる。
企業側から見ると、「順調に慣れてきた」と感じる時期です。
しかし、入社後30日間は、まだまだ注意が必要です。
外国人社員が「分かりました」と答えていても、実際には十分に理解できていないことがあります。
これは、本人が嘘をついているということではありません。
日本語では理解したつもりでも、作業の意味までは分かっていない。
質問したいけれど、何度も聞くのが申し訳ない。
上司に「分かりません」と言うのが怖い。
このような理由から、「分かりました」と答えてしまうことがあります。
だからこそ、入社後30日間は、会社側が「伝えたか」ではなく、「伝わったか」を確認することが重要です。
今回は、外国人社員への仕事の教え方と、コミュニケーションのポイントを紹介します。
1.一度にたくさん教えない
新人教育では、早く仕事を覚えてもらいたいという気持ちから、多くのことを一度に説明してしまいがちです。
しかし、外国人社員にとっては、仕事の内容だけでなく、日本語そのものも同時に理解しなければなりません。
たとえば
「この部品を取って、傷がないか確認して、向きを合わせてセットして、終わったら記録してください」
と一度に説明すると、途中までしか理解できないことがあります。
そこで、指示はできるだけ短く分けます。
「この部品を取ります」
「ここを見ます」
「傷がないか確認します」
「向きを合わせます」
「ここに置きます」
「最後に記録します」
一つの動作ごとに区切って説明すると、理解しやすくなります。
特に最初のうちは、「一つ教える、やってもらう、確認する」という流れを繰り返すことが大切です。
2.やさしい日本語を使う
外国人社員への説明では、難しい言葉や長い文章を避けることが基本です。
たとえば、
「異常が発生した場合は、速やかに設備を停止し、上司へ報告してください」
という表現は、日本人には普通でも、日本語学習者には難しい場合があります。
これを、
「機械がおかしいときは、止めます」
「自分で直しません」
「〇〇さんを呼びます」
と分ければ、かなり分かりやすくなります。
また、現場では専門用語や略語も多く使われます。
「段取り」
「仕掛品」
「良品」
「不良」
「手直し」
「チョコ停」
こうした言葉は、日本人社員には当たり前でも、外国人社員には意味が分からないことがあります。
最初のうちは、現場でよく使う言葉を一覧にして、意味や写真を付けておくと効果的です。
3.「分かりましたか?」だけで確認しない
教育担当者が説明した後、
「分かりましたか?」
と聞くことがあります。
しかし、この質問だけでは理解度の確認にならないことがあります。
外国人社員が反射的に「はい、分かりました」と答えることがあるからです。
そこで、確認方法を変えます。
たとえば、
「次は何をしますか」
「この機械がおかしいとき、どうしますか」
「不良品を見つけたら、誰に言いますか」
と、本人に答えてもらいます。
さらに効果的なのが、本人に実際にやってもらうことです。
説明を聞いた後に作業をしてもらえば、どこまで理解できているかが分かります。
「説明したから大丈夫」ではなく、「できることを確認して初めて理解したと判断する」という考え方が重要です。
4.見せる教育を増やす
言葉だけで仕事を教えるには限界があります。
特に製造現場では、写真、図、動画などを活用すると理解しやすくなります。
たとえば、不良品の説明をするときも、
「傷があるものは不良です」
と説明するだけではなく、良品と不良品の写真を並べて見せる方が分かりやすくなります。
作業手順についても、
- 部品を取る
- 向きを確認する
- 治具にセットする
- ボタンを押す
- 完成品を確認する
と、写真付きで順番を示すと効果的です。
※作業動画を短く撮影し、必要なときに見られるようにする方法もあります。
外国人社員に限らず、視覚的に分かりやすい教育資料は、日本人の新人教育にも役立ちます。
5.教える人によって説明を変えない
教育担当者が複数いる場合、教える人によって内容が違うことがあります。
Aさんは「この順番でやって」と言い、Bさんは「そんなやり方じゃなくてもいい」と言う。
外国人社員にとっては、どちらが正しいのか分かりません。
特に、先輩社員が自己流のやり方を教えると、混乱する原因になります。
そこで重要なのが、標準作業を明確にすることです。
誰が教えても同じ内容になるように、作業手順を整理しておきます。
「会社として正しいやり方はこれです」
という基準があることで、外国人社員も安心して仕事を覚えることができます。
これは、品質や安全の面でも非常に重要です。
6.質問しやすい雰囲気をつくる
外国人社員に、
「分からないことがあったら聞いてください」
と伝えている会社は多いと思います。
しかし、本当に質問できる雰囲気になっているでしょうか。
忙しそうな上司に声をかけたら嫌な顔をされた。
同じことを2回聞いたら、「前に教えただろう」と言われた。
日本語を間違えたら笑われた。
このような経験が一度でもあると、本人は質問しなくなります。
分からないまま作業を続けることは、ミスや事故につながる可能性があります。
教育担当者は、
「分からないときに聞くのは悪いことではありません」
「何回聞いても大丈夫です」
と、繰り返し伝えることが大切です。
そして、実際に質問されたときの対応も重要です。
忙しいときでも、
「今は手が離せないので、5分後に説明します」
と伝えれば、本人は安心できます。
7.間違いを叱る前に原因を確認する
仕事でミスが起きた場合、すぐに本人の注意不足と決めつけないことも大切です。
たとえば、不良品を流してしまった場合でも、
- 検査基準を理解していなかった
- 言葉の意味を勘違いしていた
- 教えた人によって説明が違った
- 写真や基準書が分かりにくかった
- 質問しづらい雰囲気だった
など、教育側に原因がある場合もあります。
まず、「なぜこうしたのですか」と本人に確認します。
日本語で説明することが難しい場合は、現物や写真を使いながら確認するとよいでしょう。
ミスを責めるだけでは、本人は隠すようになります。
大切なのは、同じミスを繰り返さない仕組みをつくることです。
8.文化の違いも考慮する
職場では、日本では当たり前と思われている行動が、外国人社員には分かりにくいことがあります。
たとえば、
- 5分前に集合する
- 自分の仕事が終わっても周囲を手伝う
- 上司に先に報告する
- 周囲の状況を見て行動する
- 言われなくても準備する
こうした行動は、日本の職場文化の中で自然に身につけることが多いものです。
しかし、外国人社員にとっては、説明されなければ分からない場合があります。
「普通は分かるだろう」と考えるのではなく、必要なことは言葉にして伝えることが重要です。
ただし、日本のやり方を一方的に押し付けるのではなく、
「なぜ会社ではこのようにしているのか」
という理由も説明しましょう。
理由が分かれば、本人も納得しやすくなります。
9.仕事以外の様子にも目を向ける
入社後30日間は、仕事だけでなく生活面にも注意が必要です。
本人が仕事で集中できていない場合、原因が職場ではなく生活にあることもあります。
たとえば、
- 寮で眠れていない
- 食事が合わない
- 通勤に困っている
- 家族と連絡が取れず不安
- 給与や生活費に心配がある
- 職場以外に話す人がいない
といった悩みです。
現場の上司には相談しにくい内容もあります。
そのため、仕事を教える担当者とは別に、生活面や困りごとを相談できる人を決めておくと安心です。
「仕事はどうですか」だけではなく、
「生活で困っていることはありませんか」
と聞くことも重要です。
10.30日目には一度立ち止まって確認する
入社から1か月ほど経ったら、一度面談の時間を設けましょう。
日常的に話していても、正式な面談の場をつくることで、普段は言えないことを聞ける場合があります。
確認したい内容としては、
- 仕事で分からないこと
- 難しいと感じている作業
- 人間関係
- 日本語で困ること
- 生活上の困りごと
- 今後覚えたい仕事
などがあります。
会社側からも、
「ここはできるようになりました」
「次はこの仕事を覚えていきましょう」
と、成長した点と今後の目標を伝えます。
外国人社員にとって、自分がどのように評価されているのか分からない状態は不安です。
定期的にフィードバックを行うことで、安心して仕事を続けやすくなります。
「伝えた」ではなく「伝わった」を確認する
外国人社員への教育では、日本語力だけを問題にしないことが大切です。
仕事がうまく伝わらないとき、
「日本語ができないから仕方がない」
で終わらせてしまうと、改善にはつながりません。
指示を短くする。
実際に見せる。
写真や動画を使う。
本人にやってもらう。
質問しやすい環境をつくる。
こうした工夫によって、言葉の壁はかなり低くすることができます。
そして、このような教育方法は外国人社員だけのためのものではありません。
仕事の教え方を標準化し、誰でも理解しやすい手順書をつくることは、日本人の新人教育や技能伝承にも役立ちます。
外国人社員の受入れをきっかけに、「人に伝わる教育」ができているかを会社全体で見直してみるのもよいでしょう。
入社後30日間は、外国人社員が仕事に慣れる期間であると同時に、会社への信頼をつくる期間でもあります。
「分かりません」と安心して言える職場をつくることが、ミスや事故を防ぎ、長く働いてもらうことにつながります。
次回は、入社から少し時間が経った頃に現れやすい「早期離職のサイン」について取り上げます。
遅刻や欠勤、表情の変化、会話の減少など、外国人社員の小さな変化にどう気づき、どのように面談すればよいのかを解説します。

