入社90日後が本当のスタート
長く働いてもらうための定着支援
外国人社員が入社して約3か月。
仕事の流れも少しずつ分かり、職場の人間関係にも慣れてくる頃です。
企業側としても、
「ここまで続いたから、もう大丈夫だろう」
と感じるかもしれません。
しかし、実はこの時期こそ、今後の定着を考えるうえでとても重要です。
入社直後は、外国人社員も「まずは仕事を覚えよう」と一生懸命です。
ところが3か月ほど経つと、少し余裕が生まれ、
「この会社で長く働けそうか」
「自分はこれから成長できるのか」
「今の給与や仕事に納得できるか」
「もっと条件の良い会社があるのではないか」
といったことを考え始める場合があります。
だからこそ、入社90日後は「受入れの終わり」ではありません。
むしろ、ここからが本当の定着支援のスタートです。
最終回では、外国人社員に長く安心して働いてもらうために、企業が取り組みたいポイントを紹介します。
1.3か月面談を必ず行う
まず実施したいのが、入社3か月頃の面談です。
日常会話だけではなく、少し時間を取って、これまでの仕事や生活について振り返る機会をつくります。
面談では、たとえば次のようなことを確認します。
- 今の仕事には慣れたか
- 難しいと感じる作業はあるか
- 職場の人間関係で困っていないか
- 日本語で分からないことはあるか
- 生活面で困っていることはないか
- 今後覚えたい仕事はあるか
- 将来どのように働きたいか
大切なのは、会社側から質問するだけでなく、本人の話をしっかり聞くことです。
外国人社員が何を考えているのかは、普段の仕事ぶりだけでは分からないことがあります。
「特に問題ありません」
という回答だけで終わらせず、具体的な質問をしながら話を聞いてみましょう。
2.できるようになったことを伝える
面談では、改善点ばかりを伝えないことも大切です。
入社から3か月の間に、本人は多くのことを覚えています。
たとえば、
「一人でこの作業ができるようになりました」
「安全確認がしっかりできています」
「日本語で報告できるようになりました」
「遅刻せず、毎日きちんと出勤できています」
など、具体的に成長した点を伝えましょう。
本人にとって、自分が会社からどのように評価されているのか分からない状態は不安です。
「自分はちゃんと仕事ができているのだろうか」と感じながら働いている人もいます。
会社側から成長を言葉で伝えることで、「自分はこの会社で役に立っている」という実感につながります。
3.次に目指す仕事を示す
外国人社員に長く働いてもらうためには、「今の仕事を続けるだけ」ではなく、その先を見せることが重要です。
たとえば製造業であれば、
- 次の工程を覚える
- 品質検査を担当する
- 段取り替えを覚える
- 設備の簡単な点検を担当する
- 新人教育を担当する
- リーダーを目指す
といったステップがあります。
本人に、
「次はこの仕事を覚えてほしい」
「半年後にはここまでできるようになってほしい」
と伝えることで、目標を持って働きやすくなります。
仕事を覚えても、いつまでも同じ作業だけを続けていると、
「この会社にいても成長できない」
と感じることがあります。
キャリアの見通しを示すことは、定着支援の大切な要素です。
4.評価の基準を分かりやすくする
外国人社員からよく出る不満の一つが、
「なぜ自分の給料は上がらないのか」
というものです。
会社側には評価基準があっても、本人に十分伝わっていないことがあります。
たとえば、
- 出勤状況
- 作業の正確さ
- 生産性
- 安全ルールの遵守
- 日本語での報告
- 習得した作業数
- 後輩への指導
など、何を評価しているのかをできるだけ分かりやすく伝えましょう。
「頑張れば評価されます」だけでは、何を頑張ればよいのか分かりません。
「この作業を一人でできるようになると評価が上がります」
というように具体的に示す方が、本人も目標を持ちやすくなります。
評価の透明性は、外国人社員に限らず、すべての社員の納得感につながります。
5.日本語学習を仕事の成長につなげる
日本語力は、外国人社員のキャリアにも大きく影響します。
日本語が上達すると、
- 作業指示を理解しやすくなる
- 報告や相談がしやすくなる
- 日本人社員との会話が増える
- より高度な仕事を任せやすくなる
- リーダーや教育担当を目指しやすくなる
といったメリットがあります。
企業としても、日本語学習を本人任せにするのではなく、できる範囲で支援することを検討してみましょう。
たとえば、
- 日本語教材を紹介する
- 地域の日本語教室を紹介する
- 社内でよく使う言葉をまとめる
- 日本語試験の受験を応援する
- 勉強時間を確保しやすい環境をつくる
といった支援があります。
特に重要なのは、日本語学習を単なる勉強で終わらせず、仕事と結びつけることです。
「この日本語が分かると、次の仕事ができるようになります」
と伝えることで、本人も学習の目的を持ちやすくなります。
6.外国人社員を孤立させない
仕事に慣れてきても、職場で孤立していると定着は難しくなります。
外国人社員同士だけで集まり、日本人社員とはほとんど話さないという職場もあります。
同じ国の人がいることは安心につながりますが、職場全体との交流がない状態が続くと、情報が届かなかったり、誤解が生じたりすることがあります。
日常的に、
「おはようございます」
「今日はどうですか」
「仕事は順調ですか」
と声をかけるだけでも違います。
また、
- 昼休みに一緒に食事をする
- 社内行事に声をかける
- 日本人社員とペアで仕事をする
- 複数の社員と関わる機会をつくる
など、自然な交流の機会を増やすことも有効です。
大切なのは、「外国人社員」として特別扱いし続けるのではなく、少しずつ職場の一員として関係をつくることです。
7.母国とのつながりにも配慮する
外国人社員にとって、日本で働くことは大きな挑戦です。
一方で、母国には家族や友人がいます。
家族の病気や冠婚葬祭、帰国の必要などが発生することもあります。
こうした事情を一切考慮しない職場では、本人の不満が大きくなることがあります。
もちろん、会社としてすべての希望に応えることはできません。
ただし、
「帰国したいと言ったら嫌な顔をされる」
ような雰囲気ではなく、まず事情を聞くことが大切です。
本人の背景を理解しようとする姿勢が、会社への信頼につながります。
8.在留資格や期限管理も忘れない
外国人社員の定着を考えるうえでは、在留資格の管理も重要です。
どれだけ本人が働き続けたいと考えていても、必要な手続が遅れてしまえば、就労を続けられなくなる可能性があります。
企業側では、
- 在留カードの有効期限
- 在留資格の種類
- 更新時期
- 担当している仕事内容
- 転居や家族状況の変化
などを適切に管理しておく必要があります。
特に、更新時期が近づいてから慌てないよう、早めに確認する仕組みを作っておくと安心です。
在留資格は外国人社員本人だけの問題ではありません。
外国人を雇用する企業にとっても、重要な雇用管理の一部です。
9.「辞めないこと」だけを目標にしない
外国人社員の定着支援というと、
「どうすれば辞めないか」
という発想になりがちです。
しかし、無理に引き止めることが定着支援ではありません。
本人が、
「この会社で働きたい」
「もっと仕事を覚えたい」
「ここで成長したい」
と思える環境をつくることが重要です。
そのためには、
- 安心して相談できる
- 頑張りを認めてもらえる
- 成長できる
- 評価が分かりやすい
- 将来が見える
といった環境が必要です。
定着とは、単に在籍期間を長くすることではありません。
本人と会社の双方が納得して働き続けられる関係をつくることです。
10.90日間の受入れを会社の仕組みにする
今回のシリーズでは、外国人社員が入社する前から90日後までの受入れについて紹介してきました。
第1回では、入社前の受入れ準備。
第2回では、入社初日のオリエンテーション。
第3回では、入社後30日間の教育とコミュニケーション。
第4回では、早期離職のサインと面談。
そして今回は、90日後からの定着支援について取り上げました。
重要なのは、これらを担当者個人の経験や努力だけに頼らないことです。
たとえば、
- 入社前チェックリスト
- 初日オリエンテーション資料
- 教育計画
- 1か月面談シート
- 3か月面談シート
- 在留期限管理表
などを用意しておけば、担当者が変わっても同じように受け入れることができます。
外国人社員が増えてきた企業ほど、受入れを「仕組み」にすることが大切です。
外国人社員の定着は会社づくりにつながる
外国人社員が長く働ける会社をつくるためには、外国人だけを特別に支援すればよいわけではありません。
分かりやすい教育。
相談しやすい職場。
公平な評価。
成長できる環境。
将来が見えるキャリア。
これらは、日本人社員にとっても働きやすい職場の条件です。
外国人社員の受入れをきっかけに、自社の教育やコミュニケーション、評価制度を見直すことは、会社全体の働きやすさを高めることにもつながります。
人手不足が続く中で、外国人材の採用を検討する企業は今後も増えていくでしょう。
しかし、大切なのは「採用すること」だけではありません。
採用した人が安心して働き、仕事を覚え、会社の一員として成長できる環境をつくること。
そこまで考えて初めて、外国人雇用は企業の力になります。
「外国人社員が辞めない会社へ―入社後90日間の受入れ実務」全5回が、これから外国人社員を迎える企業、そしてすでに外国人社員と働いている企業にとって、受入れ体制を見直すきっかけになれば幸いです。

