第1回 定着は入社前から始まる
外国人社員を迎えるための受入れ準備
外国人社員の採用が決まり、在留資格の手続や雇用契約も整った。
企業側としては、これでひと安心と思うかもしれません。
しかし、外国人社員の定着という点では、本当の準備はここから始まります。
外国人社員が早期に退職する原因は、仕事そのものだけではありません。
「聞いていた仕事内容と違った」
「職場のルールが分からない」
「困ったときに誰に相談すればよいか分からない」
「生活のことで困っているが、会社には言いづらい」
こうした小さな不安や認識のずれが積み重なり、退職につながることがあります。
外国人社員に長く安心して働いてもらうためには、入社してから対応を考えるのではなく、入社前から受入れ体制を整えておくことが重要です。
今回から全5回にわたり、「外国人社員が辞めない会社へ―入社後90日間の受入れ実務」をテーマに、企業が実践できる受入れのポイントを紹介します。
第1回は、外国人社員を迎える前に準備しておきたい内容について解説します。
1.仕事内容をもう一度確認する
まず確認したいのが、本人が理解している仕事内容と、会社が実際に担当させる仕事内容にずれがないかという点です。
採用面接では、通訳を介して説明していたり、簡単な日本語だけで話を進めていたりすることがあります。
そのため、企業側は十分に説明したつもりでも、本人は仕事内容を正確に理解していない場合があります。
たとえば、製造業の求人で「機械オペレーター」と説明していても、実際には次のような業務が含まれることがあります。
- 材料の運搬
- 製品の検査
- 設備の清掃
- 作業記録の記入
- 夜勤や交代勤務
- 重量物の取り扱い
本人が機械操作だけを担当すると思っていた場合、入社後に「聞いていた仕事と違う」という不満につながります。入社前には、担当業務、勤務時間、残業、休日、夜勤の有無、作業環境などを改めて確認しておきましょう。
文章だけでなく、写真や動画、作業場所の見学などを取り入れると、より具体的にイメージしてもらえます。
2.労働条件を分かりやすく伝える
雇用契約書や労働条件通知書を渡すだけでは、十分に理解してもらえないことがあります。
特に、外国人社員が誤解しやすいのが給与に関する内容です。
求人票に記載された金額がそのまま手取り額だと思っていたところ、実際には税金、社会保険料、寮費などが差し引かれ、想定よりも少なかったというケースがあります。
そのため、給与については、次の点を具体的に説明しておく必要があります。
- 基本給
- 各種手当
- 残業代の計算方法
- 給与の支払日
- 税金や社会保険料
- 寮費や光熱費の負担
- おおよその手取り額
残業についても注意が必要です。
外国人社員の中には、できるだけ多く残業して収入を増やしたいと考えている人もいます。
しかし、会社の仕事量によっては、毎月同じように残業があるとは限りません。
「残業は必ずあるものではない」という点も、事前に伝えておくことが大切です。
3.社内の受入れ担当者を決める
外国人社員を採用したものの、誰が面倒を見るのかが決まっていない会社もあります。
人事担当者は入社手続を行い、現場では班長や先輩社員が仕事を教える。
しかし、生活上の相談や職場での悩みについて、誰が対応するのかは曖昧になっている。
このような状態では、問題が起きたときに対応が遅れます。
入社前に、少なくとも次の役割を整理しておきましょう。
- 雇用契約や在留資格に関する担当者
- 現場で仕事を教える担当者
- 生活面や日常的な相談を受ける担当者
- トラブルが起きた場合の責任者
すべてを一人に任せる必要はありません。
むしろ、一人の担当者に負担を集中させると、その担当者が疲弊してしまいます。
人事、現場、経営者などが役割を分担し、必要な情報を共有できる仕組みを作ることが大切です。
外国人社員本人にも、「仕事の相談は〇〇さん」「生活の相談は〇〇さん」と分かりやすく伝えられるようにしておきましょう。
4.現場の社員にも事前に説明する
外国人社員を受け入れる際は、本人への説明だけでなく、一緒に働く日本人社員への説明も欠かせません。
現場の社員が何も聞かされていない状態で外国人社員が配属されると、戸惑いや不満が生じることがあります。
たとえば、次のような声が出るかもしれません。
「日本語が通じないのに、どうやって仕事を教えるのか」
「自分の仕事が増えるのではないか」
「どこまでサポートすればよいのか分からない」
こうした不安を放置すると、外国人社員との関係にも影響します。
配属前には、外国人社員の日本語レベル、担当業務、教育方法、相談ルートなどを現場に説明しておきましょう。
外国人社員を特別扱いするということではありません。
言葉や文化の違いがあることを前提として、仕事を安全かつ正確に覚えてもらうための準備です。
5.作業手順や社内ルールを見直す
外国人社員の受入れは、社内の説明や教育方法を見直すよい機会でもあります。
日本人社員同士では、「見れば分かる」「普通はこうする」として説明を省略していることが少なくありません。
しかし、そのような暗黙のルールは、外国人社員には伝わりません。
たとえば、次のような内容も明確にする必要があります。
- 始業前にどこへ集合するのか
- 作業着や保護具はいつ着用するのか
- 休憩はどこで取るのか
- 不良品を見つけたら誰に報告するのか
- 機械が止まったときに何をするのか
- 遅刻や欠勤の場合は誰に連絡するのか
- スマートフォンを使用してよい場所や時間
- ごみの分別や喫煙のルール
作業手順書や社内ルールは、文章を長くするよりも、写真、イラスト、記号などを使った方が伝わりやすくなります。
専門用語や難しい表現を避け、やさしい日本語で書くことも効果的です。
「外国人社員向けに分かりやすくする」という視点で見直すと、日本人の新人社員にとっても理解しやすい資料になります。
6.生活面の準備も確認する
外国人社員が日本で安心して働くためには、生活環境が整っていることも重要です。
仕事に問題がなくても、住居や通勤、銀行口座、携帯電話などで困っていると、仕事に集中できません。
入社前には、次の内容を確認しておきましょう。
- 住居は決まっているか
- 家具や家電はそろっているか
- 通勤方法は確保できているか
- 銀行口座は開設できるか
- 携帯電話やインターネットを利用できるか
- 近くの病院やスーパーを把握しているか
- ごみ出しの方法を理解しているか
- 緊急時の連絡先を知っているか
特に地方の工場では、通勤が大きな問題になります。
公共交通機関が少なく、自動車や自転車がなければ通勤できない場合もあります。
採用が決まってから慌てることがないよう、早めに確認する必要があります。
7.本人の不安を聞く機会をつくる
企業側が準備したい内容を説明するだけでなく、外国人社員本人が何を不安に感じているのかを聞くことも大切です。
本人が気にしているのは、会社が想定していることとは違うかもしれません。
たとえば、
「仕事を覚えられるか」
「日本人の同僚とうまく話せるか」
「宗教上の習慣に配慮してもらえるか」
「病気になったときにどうすればよいか」
「家族と連絡できる環境があるか」
といった不安を抱えていることがあります。
入社前に一度、面談やオンラインで話す機会を設け、「困っていることはありませんか」「心配なことはありますか」と確認しておきましょう。
本人の日本語力に応じて、通訳や翻訳ツールを活用することも必要です。
大切なのは、質問したことに対して、その場ですべて解決することではありません。
会社が話を聞く姿勢を見せることで、「困ったときには相談してよい」という安心感につながります。
入社前準備が早期離職を防ぐ
外国人社員の早期離職を防ぐために、特別な制度や高額な福利厚生が必要とは限りません。
まず必要なのは、仕事内容や労働条件を正確に伝え、相談できる人を決め、安心して働き始められる環境を整えることです。
入社前の準備が不十分であれば、入社後に小さなトラブルが次々と起こります。
一方で、事前に役割やルールを整理しておけば、外国人社員だけでなく、受け入れる現場の社員も安心できます。
外国人社員の定着は、本人の努力だけに任せるものではありません。
企業側が受入れの仕組みを整え、入社後の不安を一つずつ減らしていくことが重要です。
次回は、外国人社員にとって最初の大きな節目となる「入社初日」について取り上げます。
どのようなオリエンテーションを行い、何を説明すればよいのか。
入社初日の対応を定着につなげるポイントを解説します。

