~経営者が本来の判断業務に集中するために~
前回の記事では、ChatGPTとは何か、そして中小企業が知っておきたい基本的な使い方や注意点について解説しました。
生成AIは、文章作成や情報整理、アイデア出しを得意とする便利なツールです。
では、中小企業では具体的にどこから使い始めればよいのでしょうか。
おすすめしたいのは、まず社長自身の仕事からです。
中小企業では、社長が営業、採用、経理、総務、現場対応、顧客対応まで幅広く担っていることが少なくありません。
本来であれば、経営者が時間を使うべきなのは、
- 経営判断
- 売上づくり
- 人材確保
- 取引先との関係づくり
- 将来の事業計画
といった重要な仕事です。
しかし実際には、日々のメール対応、資料作成、会議準備、社内文書の確認などに多くの時間を取られている経営者も多いのではないでしょうか。
AIは、こうした社長の「細かいけれど時間を取られる仕事」を軽くするために活用できます。
社長の仕事は「判断」と「作業」に分けて考える
まず大切なのは、社長の仕事を大きく2つに分けて考えることです。
1つ目は、社長でなければできない仕事です。
例えば、
- 重要な取引先との交渉
- 採用するかどうかの最終判断
- 新規事業への投資判断
- 資金繰りの判断
- 従業員との重要な面談
などです。
これらは、会社の方向性を左右する重要な判断です。AIに丸投げするものではありません。
一方で、2つ目は、社長が行っているものの、必ずしも社長本人がゼロから作る必要はない仕事です。
例えば、
- メールの下書き
- 会議資料のたたき台
- 社内通知文の作成
- 議事録の整理
- ホームページやブログの原稿案
- 採用文の作成
などです。
こうした作業は、AIが得意とする分野です。
つまり、AI活用の基本は、
社長の判断をAIに任せるのではなく、判断する前の準備作業をAIに手伝わせること
です。
メール作成を効率化する
社長の仕事で、まずAIを使いやすいのがメール作成です。
取引先への連絡、見積り後のフォロー、面談日程の調整、お礼メールなど、日々のメール対応には意外と時間がかかります。
AIを使えば、伝えたい内容を箇条書きで入力するだけで、自然な文章に整えてくれます。
例えば、次のように依頼できます。
取引先に送るメールを作成してください。
内容は、先日の打ち合わせのお礼、見積書を添付したこと、確認後に不明点があれば連絡してほしいことです。
丁寧だが堅すぎない文面にしてください。
このように指示すれば、すぐにメールのたたき台が作成されます。
もちろん、そのまま送信するのではなく、事実関係や相手との関係性に合わせて修正する必要があります。
それでも、ゼロから文章を考えるより大幅に時間を短縮できます。
会議の準備に活用する
社長は、社内会議や取引先との打ち合わせに出席する機会も多いでしょう。
その際、AIは会議前の準備にも役立ちます。
例えば、
- 会議の議題を整理する
- 確認すべき項目をリスト化する
- 相手に質問すべき内容を考える
- 打ち合わせ後の議事録を整理する
といった使い方ができます。
特に便利なのは、会議前に「論点」を整理する使い方です。
例えば、
外国人材の採用を検討している製造業の会社が、社内会議で確認すべき論点を整理してください。
と入力すれば、
- どの業務を担当してもらうのか
- 必要な在留資格は何か
- 日本語能力はどの程度必要か
- 住居や生活支援はどうするか
- 社内教育を誰が担当するか
といった確認事項を整理できます。
このように、AIは「何を考えるべきか」を洗い出す壁打ち相手として活用できます。
企画書や提案書のたたき台を作る
新しい取引先への提案、新サービスの検討、社内改善活動などでは、企画書や提案書が必要になることがあります。
しかし、忙しい社長にとって、白紙の状態から資料を作るのは負担が大きいものです。
AIに依頼すれば、企画書の構成案や文章のたたき台を作ることができます。
例えば、
中小製造業向けに、外国人材の受け入れ体制を整備するための社内研修を提案する企画書の構成を考えてください。
と入力すると、
- 現状の課題
- 研修の目的
- 対象者
- 研修内容
- 実施スケジュール
- 期待される効果
といった構成を整理できます。
行政書士の視点で見ても、これは非常に相性の良い使い方です。
許認可、契約、外国人雇用、補助金、社内規程など、企業が検討すべきテーマは多岐にわたります。
AIを使って論点を整理することで、専門家に相談する前の準備もしやすくなります。
情報収集の入口として使う
社長は日々、さまざまな情報に触れる必要があります。
- 法改正
- 補助金
- 採用市場
- 業界動向
- 外国人雇用制度
- DXやAI活用
ただし、インターネット上には情報が多すぎて、何から読めばよいのか分からないこともあります。
ChatGPTは、こうした情報収集の入口として利用できます。
例えば、
中小企業が外国人を雇用する際に、経営者が最初に知っておくべきことを整理してください。
と聞くことで、全体像を把握できます。
ただし、ここで注意が必要です。
AIの回答は、必ずしも最新情報とは限りません。また、法令や制度に関する内容については、誤りが含まれる可能性もあります。
そのため、AIで全体像をつかんだうえで、最終的には公的機関の情報や専門家への確認が必要です。
社内向けの文章作成に活用する
社長が意外と悩むのが、社内向けの文章です。
例えば、
- 従業員へのお知らせ
- 新制度の案内
- 注意喚起文
- 社内ルールの説明
- 安全衛生に関する連絡
などです。
こうした文章は、伝え方を間違えると従業員に冷たく受け取られたり、逆に曖昧になりすぎて意図が伝わらなかったりします。
AIを使えば、
- 丁寧な文面
- やわらかい文面
- 簡潔な文面
- 厳しめの文面
など、目的に応じて表現を調整できます。
例えば、
従業員に対して、作業日報の提出期限を守ってほしいことを伝える社内通知文を作成してください。
責める表現ではなく、協力をお願いする文面にしてください。
このように依頼すれば、角が立ちにくい文章を作ることができます。
中小企業では、社長と従業員の距離が近いからこそ、言葉の伝え方が大切です。
AIは、そうした表現の調整にも役立ちます。
外国人従業員への説明にも使える
外国人を雇用している企業、または今後雇用を検討している企業では、社内説明の分かりやすさが重要になります。
日本人には当たり前に感じる社内ルールでも、外国人従業員にとっては分かりにくいことがあります。
例えば、
- 欠勤連絡の方法
- 有給休暇の申請方法
- 作業服のルール
- 安全確認の手順
- ゴミ出しや寮生活のルール
などです。
AIを使えば、こうした説明文を「やさしい日本語」に書き換えることができます。
例えば、
次の文章を、外国人従業員にも分かりやすい、やさしい日本語にしてください。
「欠勤する場合は、始業時刻までに所属長へ電話連絡を行ってください。」
このように入力すれば、より分かりやすい表現に整えることができます。
外国人雇用では、在留資格の手続きだけでなく、職場での定着支援も重要です。
AIは、社内コミュニケーションを改善する道具としても活用できます。
AI活用で注意すべきこと
便利なAIですが、社長が業務で使う場合には注意点もあります。
特に重要なのは、次の3つです。
1 機密情報を入力しない
取引先名、個人情報、未公開の経営情報などを安易に入力するのは避けるべきです。
AIに入力する情報は、社外に出しても問題ない範囲に加工してから使うことが基本です。
2 法令や制度は必ず確認する
AIは、法律や制度についても説明してくれます。
しかし、その内容が最新かつ正確であるとは限りません。
許認可、在留資格、労務、税務、契約などに関する判断は、必ず専門家や公的情報で確認する必要があります。
3 最終判断は社長が行う
AIは選択肢を示すことはできますが、会社の責任を負うことはできません。
最終的に決めるのは経営者です。
AIはあくまで、判断を助ける道具として使うことが大切です。
まずは「1日10分」から始める
AI活用というと、最初から大きな業務改革を想像してしまうかもしれません。
しかし、最初は小さく始めれば十分です。
例えば、
- 今日送るメールを1通だけAIで下書きする
- 会議の議題をAIに整理してもらう
- 社内通知文をAIに作ってもらう
- ブログや採用文の見出しを考えてもらう
この程度で構いません。
大切なのは、実際に使ってみることです。
AIは、説明を読むだけではなかなか実感が湧きません。
しかし、一度使ってみると、
「これは自社でも使えるかもしれない」
という感覚が出てきます。
まとめ
社長の仕事には、AIに任せてはいけない重要な判断業務があります。
一方で、メール作成、資料のたたき台、議題整理、社内通知文など、AIが手助けできる業務も数多くあります。
中小企業にとって重要なのは、AIを使って社長の時間を空けることです。
そして、その空いた時間を、
- 顧客対応
- 従業員との対話
- 採用活動
- 経営判断
- 将来の事業づくり
に使うことができます。
AIは、社長の代わりに経営するものではありません。
しかし、社長が本来の仕事に集中するための強力な補助者にはなります。
まずは身近な業務から、少しずつ試してみてはいかがでしょうか。
次回予告
第4回は、
「総務・経理業務にAIを活用する」
をテーマに、社内文書、規程、請求書管理、経費整理など、バックオフィス業務でのAI活用方法について解説します。

